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アサーションとは
アサーション(assertion)は、そもそもは「主張」という意味です。アサーションにおける「自己主張」とは、相手の意見を尊重しつつ適切に自分の意見も述べることを意味します。相手も自分も大切にするコミュニケーションスキルとして、アメリカで提唱されました。
アサーションは、もともとは1949年出版の行動療法に関する書籍で提唱された用語とされています。自己主張という意味で使われるようになったのは、1950年代以降の人種差別撤廃運動や婦人解放運動においてです。それまでは人種や性別による差別で抑圧されてきた方も、自由に意見を主張できる機会が生まれました。しかし、意見の伝え方がわからず、自分の気持ちを適切に表現できない方が多くいたのです。それがきっかけとなって、相手を大切にしつつ、なおかつ自分の主張はしっかりと行うアサーションの手法が取り入れられるようになりました。
企業においても、アサーションの手法を実践することで、上司や部下、取引先などとのコミュニケーションがスムーズになります。
アサーションが注目される背景
アサーションは、企業のハラスメントリスクへの対策として注目されている手法です。パワハラ防止法や育児・開業休業法を中心として、ハラスメントを防止する取り組みが強化されています。
アサーションは相手を傷つけることなく自己主張するコミュニケーション方法であるため、ハラスメントの防止につながります。特に年齢差や立場の違いが生むコミュニケーションの嚙み合わなさに悩んでいる方には、アサーションが役立つでしょう。
アサーションはテレワーク時のコミュニケーションにおけるストレスや行き違いの解消にも役立ちます。テレワーク中は、相手の表情や感情を読み取るのが難しく、スムーズなコミュニケーションに苦慮する場合が少なからずあります。アサーションを活用し相手の状態に注目すれば、テレワーク中の意思疎通がより円滑になります。
アサーションにおける3つのコミュニケーションスタイル
私たちのコミュニケーションは、主に3つのスタイルに分類されます。ここでは、それぞれのコミュニケーションスタイルの特徴について解説します。
アグレッシブタイプ
攻撃タイプと呼ばれ、他人への配慮が少なく、自分の意見を強く主張するのが特徴です。自分の意見を通すために言いくるめたり、怒鳴ったりして相手を操作しようとする傾向にあります。
自分の意見をはっきり伝えられる点はメリットですが、他者との軋轢や対立を生みやすい点はデメリットです。組織のためというより「自分の正しさを認めさせる」「人より上に立つ」ことに重きが置かれているため、仕事上のやり取りにトラブルが生じる場合もあります。
アグレッシブタイプの社員は、組織においてトラブルを生み出す厄介な存在になるかもしれません。
ノン・アサーティブタイプ
自分の意見を伝えるのが得意ではない、非主張的なタイプです。相手に否定されるのが怖く、自分の意見が言えない傾向にあります。
相手に対して過度に気を遣ってしまい、自説を述べることができない場合もあります。優しくて穏やかな方がノン・アサーティブタイプに該当するケースが多く、ストレスを溜めやすいのが特徴です。
問題が発生した際には言い訳ばかりしがちで、曖昧な意見でその場から逃れようとする傾向にあります。ノン・アサーティブタイプは、仕事に対する責任感が育ちづらいため、注意しなければなりません。
アサーティブタイプ
相手に配慮しつつ自分の意見を伝える理想的なタイプです。自分の意見を押し通すこともなければ、相手に遠慮して伝えられないこともありません。アサーティブタイプの方との会議や打ち合わせでは、適切な結論を導きやすくなります。
アサーションを身に付けるメリット
ここでは、アサーションを習得するメリットについて例を交えながら紹介します。
意見を適切に伝えられる
アサーションを身に付ければ、自分の意見を適切に伝えることができます。相手と異なる意見の場合でも、怖がらずにはっきりと伝えられるのです。
例えば、客先から部下の言動についてクレームが来ているとします。本人にそのまま伝えると、ストレスを抱える原因になるかもしれません。アサーションを身に付けていれば、積極的に業務に取り組んでいることを感謝した上で、改善点を伝えられます。部下が不満やストレスを抱える心配は少ないでしょう。
自分とは違った意見が出た場合に、はっきり拒否できるのもアサーションを身に付けるメリットです。攻撃的な拒否ではなく、代替案を出して適切に断れるのがアサーションの特徴です。
相手に配慮できる
アサーションを身に付けると、相手の状況や性格に配慮したコミュニケーションができるようになります。自分の意見を通したい場合でも、強く主張して関係が悪化する心配がありません。
例えば、上司から休日出勤を依頼されたとします。その際に強く拒否をしてしまうと、上司との関係性が悪化するかもしれません。アサーションを身に付けていれば「休日出勤はしたいけれど、外せない予定がある」「自分から他の社員に対応できないか頼んでみる」といった断り方ができるようになります。
関係性を守りつつも、自分の意見を通せるようになるため、今までより働きやすくなるでしょう。
取引先との交渉にも役立つ
アサーションを身に付ければ、取引先と対等にやり取りが可能になります。どちらかが一方的な関係ではなく意見を伝え合えるため、不満を抱える心配が少なく関係が長続きしやすいのがメリットです。
例えば、自社の提案に対してクライアントが大幅な値引きを要求してきたとします。クライアントのほうが立場が上だと考え、無理な要求を呑んでしまう場合もあるでしょう。しかし、アサーションを身に付けていれば、要求を鵜呑みにすることなく、値引きは難しいと伝えられます。
無理難題や過剰な要求を受け入れることで、トラブルに発展する場合もあります。アサーションを身に付ければ、適切な条件での契約が可能になり、取引先とより良い関係を構築できます。
アサーションのトレーニング方法
アサーションはトレーニングによって身に付けることができます。ここではアサーションのトレーニング方法を紹介します。
DESC法
DESC法はアサーションを体系的にまとめたトレーニング方法です。
・Describe(描く):客観的に状況や事実を伝える
・Express(表す):意見や感情を表現する
・Specify(明確に述べる):要求や解決策を提案する
・Consequence(結果):結果を予測して伝える
自分の意見を上記の4つに分けて順番に伝えると、相手と関係性を悪化させずに話し合い、合理的に物事を解決することができます。
ABCDE理論
ABCDE理論とは、下記5つの頭文字から取ったトレーニング方法です。
・Activating event:出来事や状況
・Belief:受け取り方、感じ方、ものの見方
・Consequence:結果に基づいた感情や行動
・Dispute:反論や異議
・Effect:効果や影響
単に「出来事があるから結果がある」という考え方ではなく、間にさまざまな解釈があるのがABCDE理論です。自分の考え方が正しいかを見直し、修正できるのがABCDE理論の特徴です。
I(アイ)メッセージ
I(アイ)メッセージとは自分を主語にして相手に伝えるトレーニング方法です。相手に対して反対意見を述べる際に「一般的にはこうだよね」「ほかの人はこう考えているよ」など、不特定多数の意見を伝えるとなかなか納得してもらえません。
そこで、自分を主語として意見を述べることで、言いたいことを適切に伝えつつ、意見を押し付けるような印象を避けられるのがI(アイ)メッセージの特徴です。
言語的・非言語的アサーション
言語だけではなく表情や声のトーン、ボディランゲージ、態度などの非言語コミュニケーションもアサーションを身に付ける上で重要です。相手にとって気持ちの良い非言語的コミュニケーションを意識すれば、より円滑な関係を構築できます。
まとめ
アサーションという考え方を学ぶことで、現在の状況を客観視できます。思考のプロセスや会話の方法などが人によって違うことを理解し、お互いにストレスなくコミュニケーションを行えるようになります。
アサーションを身に付けたいと考えている方は、東京・ビジネス・ラボラトリー(TBL)にご相談ください。コミュニケーションに役立つ企業研修プランがあり、プロフェッショナルの心理カウンセラーがサポートします。気になる方はお気軽にお問い合わせください。