離職率の高い中小企業にはどんな問題がある?解決するには

近年、多くの企業で社員の離職率が高くなっていることが問題となっています。 平成30年に行われた、厚生労働省の雇用動向調査※[1]によると、全産業の離職率は14.6%でした。 そして、100〜299人規模の中小企業では、大手企業と比較して恒常的に離職率が高いことが明らかになっています。※[2] この記事では、中小企業の課題のひとつである離職率を改善するための工夫についてお伝えします。


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【自社はどう?】中小企業の離職率の調べ方

離職率とは、入社後にどれほどの従業員が離職したかを数値として表したものです。

近年は労働者の売り手市場となっている状況ですので、中小企業にとって社員の離職防止は重要な課題のひとつでしょう。

もちろん、社員の自己実現や夢を叶えるための退職もあるため、すべてが問題だとはいえませんが、離職率の高さが一般的に悪い印象を与えやすくなるのは否めません。

離職率の高さを改善して企業のアピールを図るためにも、まずはこの指標の調べ方について解説していきます。

自社の離職率を計算する方法

離職率を計算する方法に関しては、法律などで明確に定められているわけではありません。

会社の考え方や方針によっても違いがあるため、ここでは多くの企業が採用している代表的な計算方法についてお伝えします。

起算日から1年間の離職率を求める方法がこちらです。
【起算日から1年間の離職者数÷起算日時点の在職者数×100=離職率(%)】

計算例
・起算日に80人が在職している会社で、1年間に4人が離職した場合
4人÷80人×100=5%の離職率

・起算日に15人を新卒採用して、新卒社員が1年間に3人が離職した場合
3人÷15人×100=20%の離職率

・起算日に10人を採用し合計で50人在職している部署で、1年間に13人が離職した場合
13人÷50人×100=26%の離職率

計算の期間中に、途中で採用した人数を入れると正しい数値が出せませんのでご注意ください。

起算日は年度初めでなくても良いため、途中の採用人数も計算に含めたい場合は起算日を変更しても良いでしょう。

自社の体制に合わせて、離職状況を把握しやすいように決めて大丈夫です。

離職率の把握は厳密でなくても良い

前述したように、離職率にはっきりした定義などはないため、数値を厳密に求め続けることがポイントではありません。

重要なのは、離職した人材の傾向について分析し、自社が改善するべき体制は何かを見極めていくことです。

あくまで指標ですので、離職率を計算して数値を出すことは目的ではなく、それを参考により良い職場環境を目指すことが大切になるでしょう。

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離職率が高い中小企業はどうなる?

離職率が高いと、社員が定年まで勤めずに途中で辞めてしまうリスクが高まります。離職を考慮して多めに採用している企業もありますが、採用人数にゆとりがある企業は多くありません。

離職率が高い企業にはどのようなデメリットがあるのでしょうか。

採用コストの増加

新入社員を採用するにはさまざまなコストがかかります。離職した社員の枠を埋めなければ人手不足に陥り、従業員の満足度が下がってさらなる離職につながるかもしれません。そうならないためにも、離職のたびに新しく採用する必要があります。

そうなると、社員が離職するたびに採用コストをかけなければなりません。通常業務に加え、採用にかかる一連の業務が増えるので人手も必要となり、コストが積み重なってしまいます。

サービスの質や生産性の低下

離職率の高さはサービスの低下にもつながります。業務のノウハウやスキルは、上司や先輩社員が部下に伝えていくことで受け継がれるものです。離職が多いと、ノウハウやスキルが身についた人材が育たなくなってしまいます。

離職が多い職場では、社員のやる気が低下し、生産性も下がります。結果的にサービスの質の低下につながり、最悪の場合は顧客満足度の低下にもつながるのです。

離職の連鎖

離職率が高い職場は、社内の雰囲気が悪化しがちです。離職理由は人によってさまざまですが、退職者と同じ不満を抱いている社員がいる場合、離職によって新たな離職の連鎖が生まれてしまうことがあります。

職場への不満がありモチベーションが下がった状態だと、同僚や先輩の離職が自分の離職のトリガーとなってしまうおそれがあるのです。

ブラック企業と認識されやすい

離職率が高い企業は、周囲からの評判が下がるおそれがあります。短期間で辞める人が多いと、「パワハラがあるのではないか」、「労働環境が厳しいのではないか」といった疑惑が生まれ、ブラック企業だと認識されてしまうこともあります。

その結果、従業員だけでなく顧客や求職者からの信用を失い、企業の売上や収益が減ってしまう可能性も捨てきれません。

離職率が高いということは、それだけ中小企業にとって大きなデメリットとなることを認識しておきましょう。

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【原因は管理職に?】中小企業の離職理由から見る課題とは

離職率を計算した結果、高い数値が出た場合は会社に何かしらの原因があるかもしれません。

離職するには理由がありますので、社員が仕事を辞めたくなる動機について把握しておくことで改善しやすくなるでしょう。

この項目では、中小企業で仕事を辞めた理由の統計を参考にして、課題について考えていきます。まずはこちらの表をご覧ください。

仕事を辞めた理由 就職後3年以内 就職後3年以降
人間関係(上司・経営者)への不満 27.7% 18.8%
業務内容への不満 10.7% 10.2%
給与への不満 9.6% 9.0%
労働時間への不満 8.6% 6.6%

参照元:中小企業庁委託「中小企業・小規模事業者の人材確保と育成に関する調査」(2014年12月(株)野村総合研究所)

この表からも見て取れるように、仕事を辞めた理由は人間関係の悩み、業務内容のミスマッチ、待遇への不満に分けることができます。どのような悩みや不満を抱えて離職するのか、内容について詳しく見ていきましょう。

人間関係(上司・経営者)への不満

上司や経営者と相性が合わないという理由は非常に多いです。仕事のやり方や価値観が合わないだけでなく、パワハラやモラハラなども理由として挙げられます。そうした上司への不満が募って離職につながってしまうのです。

業務内容への不満

業務内容への不満は、業務量が多すぎるなどの不満以外にも、業務の選択肢がせまい、希望のポジションや配置転換が叶わないなどの不満もあります。

ジョブローテーションができず、いつも同じような仕事をしていることに苦痛を感じ始める人も多いです。それが結果的にモチベーションの低下につながり、離職を決断することになってしまいます。

給与への不満

給与への不満も離職理由として非常に多いです。とくに業界の給与水準よりも給与が低い場合、社員は「同じ仕事をしているのに」と不満を募らせることがあります。また、頑張って成果を上げても昇給できないことも、モチベーションが下がる要因です。

給与は社員のモチベーションを上げるひとつの要素でもあるため、ここに不満が出ると離職を招くことにつながります。

労働時間への不満

長時間の残業や休日出勤が多いなど、労働時間が長すぎることへの不満も離職を招きます。労働時間が長いと、十分な休養がとれず心身に影響が出ることがあります。不満を募らせるだけでなく、病気になるリスクもともなうでしょう。

このように、給与や待遇、人間関係、労働環境などへの不満が、離職を招く大きな原因です。

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【定着率アップ】離職率が高い職場が実践するべき4つのこと

中小企業の離職率の高さは、会社の今後の成長に大きく左右しますので、改善が必要な場合に実践すべきことを4つに分けて紹介します。

待遇の見直しを図る

待遇の見直しを図ることは、定着率をアップさせるためには必要になるでしょう。

特に近年は女性の社会進出も盛んで、企業にとっても貴重な戦力になります。

そこで、子育て支援や産休、育休の制度を整備し、女性の働きやすい環境を確保することも大切です。

給与への不満に対しては、賃金の向上は直接的で高い効果が期待できます。

しかし、実際の中小企業の経営状況を考慮すると、簡単には対応できないところがほとんどでしょう。

その分、次にあげるような職場環境や福利厚生の改善は、大きなコストをかけずに離職率を下げるために重要になります。

職場環境の改善への姿勢を見せる

職場環境の改善に取り組み、従業員の働きやすい環境を整えることでも離職率を下げることができます。働きやすい環境づくりとは、高価な設備投資にかぎりません。

もちろん、最新機材の導入などといったハード面を充実させることができれば、業務や労働時間の改善にもつながりますが、高いコストが必要になるため、すぐに実施するのは難しいでしょう。

そこで、昼寝を休み時間に行うパワーナップ制度や休憩スペースを設けるなど、休みを取りやすい雰囲気や文化をつくることでも、職場環境の改善への取り組みを示すことができます。

すぐに改善することは難しいですが、従業員への配慮を続けることでエンゲージメントの向上に効果はあり、結果的には高い定着率につなげることができるのです。

上司とのコミュニケーションの場を設ける

退職理由でも明らかになったように、上司と新入社員が良好な関係を築けるかどうかで、離職率は大きく変動することでしょう。

そこで一例として、1on1ミーティングやランチ会などといった業務外の取り組みも検討しましょう。上司と部下が円滑にコミュニケーションを取れる場を設けることが、定着率の改善にもつながる可能性があります。

ここで大切なのは、従業員の求めていることを理解することです。未熟な意見でもまずは聞く耳を持ち、話をよく聞きましょう。企業が個人へ理解を示していることが伝われば、従業員は意欲的に仕事に取り組めるようになります。

社員が安心感をもって働きやすい環境を作ることで、業務全体の改善が期待できるため、風通しの良い職場環境を整えることは重要です。

管理者側からも相互理解をするように働きかける

従業員や部下との関係を良好にするためには、管理者側から積極的にコミュニケーションを改善することが必要です。

そのために、まず従業員の声を抽出し、コミュニケーション面でどんな課題があるのかを洗い出すことが大切でしょう。課題が分かれば、管理者側から改善のために働きかける必要があります。

とはいえ、実際にはどのように接すれば良いのか難しい部分も多いでしょう。なぜなら、円滑なコミュニケーションのためには、正しい知識とスキルが重要になるからです。

例えば、管理者側が真剣に部下のことを考えていることを、まっすぐに伝えたとします。はたして、受け取る側である部下もその意図をまっすぐに汲めるとは限りません。

そこで、第三者である外部のリソースを利用することもひとつの方法としてご検討されてはいかがでしょうか。

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まとめ

今回は中小企業の離職率の高さを解決する方法について解説してきました。

離職率は、企業の現状を把握する指標のひとつですので、数値の改善ばかりに目を向けていては根本の解決になりません。

自社の課題に合わせて、管理者側がより良い職場環境の構築を目指すことが大切です。

マネジメント側には高いスキルが要求されるため、状況に応じて外部研修を行うことで、離職に関する問題解決にもつながるでしょう。

出典
※[1]厚生労働省ホームページ「平成30年雇用動向調査」
※[2]中小企業庁ホームページ「第2章 中小企業・小規模事業者における人材の確保・育成:第2-2-26図 企業規模別常用雇用者の離職率の推移」